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vol.06 Interview

vol.06 Interview

専門医とリハビリスタッフの
チーム医療で
長期にわたり正常圧水頭症患者をフォローアップ

理事長・院長
吉田 泰久

「治療可能な認知症」とも言われる正常圧水頭症ですが、認知症の症状と紛れてしまい、患者さんの多くが見過ごされている現状があります。正常圧水頭症による歩行障害は、適切な検査・治療を行うことで改善する可能性を持っています。
吉田病院では、「正常圧水頭症センター」を整備し、専門医や療法士、臨床工学技士がチームとなって検査・治療に当たることで、正常圧水頭症の患者さんの早期発見・治療と、長く快適な毎日を過ごしていただくためのフォローアップに務めております。

正常圧水頭症は「治療可能な認知症」で、特に歩行障害の改善の可能性が高い

認知症が増えているという認識は、医療者だけではなく一般の方々にも広まっています。認知症の症状が現れた際、患者さんやご家族の中には、もう治らないものと諦めてしまう方もいらっしゃると思います。けれども実は、認知症の患者さんの中に、正常圧水頭症を発症している方が多く紛れているのです。
正常圧水頭症であれば治療が可能で、症状が改善する可能性があります。

一方で、正常圧水頭症の病態や治療方法は、全国的に必ずしも普及しているとはいえない状況です。当センターでは脳外科・神経内科専門医のもとで正常圧水頭症の検査・治療パスを構築し、患者さんとそのご家族のQOL向上のために、チームで対応しています。

正常圧水頭症の主な症状は、歩行障害、認知機能の低下、尿失禁の3つです。特に一番目立つのが歩行障害です。歩幅が狭く股を開いて歩く、「小刻み歩行」と呼ばれる歩き方になり歩行速度も遅くなります。これが数ヶ月から数年かけて進行していきます。認知機能の低下に加え、このような歩行障害が見られた場合は正常圧水頭症を疑うべきです。
しかし、脳梗塞を患った方やパーキンソン病の方にも似たような歩行が見られるため、こういった別の病気に紛れて、正常圧水頭症が見過ごされているのが現状です。あるいは、ある程度高齢になれば歩き方もゆっくりになり、認知機能が低下するのは当たり前と考え、病気を疑わず治療につながらないケースもあると思います。

正常圧水頭症は「治療可能な認知症」と言われています。適切な治療を施すことで、特に歩行障害は大きく改善する可能性があります。地域のクリニックにて認知症診断を受けた患者さんで、歩行障害が見られる場合、軽度であってもぜひ、当院にご紹介いただければと思います。

正常圧水頭症の手術は、低侵襲でリスクが少ないLPシャントを優先的に行う

正常圧水頭症の検査として、まずはMRIによる画像診断を行います。そこで「脳室や脳槽の拡大」「高位円蓋部の脳溝狭少化」が確認された場合、正常圧水頭症を疑い、タップテストを行います。
腰椎穿刺して髄液を抜き、歩行速度や認知機能に改善が見られるかを評価します。患者さんには4日間程度入院していただき、当院の療法士が詳細に評価し、判定していきます。

タップテストにより変化が確認できた場合、シャント手術を検討します。シャントという管を体に埋め込み、脳室に貯まりすぎた髄液を腹部に流しだす手術です。シャント手術には、脳室と腹部をチューブでつなぐVPシャントと、腰椎と腹部をつなぐLPシャントの2種類があります。
「脳外科医は脳を手術するものだ」という考えのもと、まだまだVPシャントを選択する施設が多いのですが、当院では、脳に直接チューブを通さないLPシャントの方が低侵襲でリスクが少ないと考え、LPシャントを優先的に行っています。手術は全身麻酔のもと、30分から1時間という短時間で済み、入院期間は歩行訓練期間を含めて約2週間です。

長期のフォローアップが必要な治療に対し、チーム医療で体制を整備

正常圧水頭症の治療は、手術をして終わりというものではなく、術後のフォローがとても重要です。
シャントには可変式バルブが設置されており、髄液を流す圧を調整する機能があるため、術後の歩行機能や認知機能の変化を測定・評価し、より効果が出るようにバルブ圧の調節を行っていきます。
このような評価・調整を術後1ヶ月、3ヶ月、半年と続けていきます。1年経つと数値も落ち着き、その後は年ごとの評価・調整になります。このように正常圧水頭症の治療には長期的かつきめ細やかな対応が求められます。医療者側の負担も少なくないため、シャント手術をあまり好まない脳外科医もいるというのが、残念ですが現状としてあります。

当院では、認知機能評価には言語聴覚士と作業療法士、歩行機能の評価や術後のリハビリテーションには理学療法士・作業療法士がそれぞれ対応しています。また、可変式バルブの調整には臨床工学技士が関わっています。可変式バルブは磁力に弱いという特徴があるため、MRIに入るなど強い磁力がかかると調整が狂ってしまいます。
そのような注意事項を患者さん向けにまとめ、また可変式バルブ圧の設定を記録するための手帳があるのですが、その手帳への記入といった管理業務も臨床工学技士に担当してもらっています。各専門領域のスタッフがしっかりと検査、評価、管理をし、専門医はそれらをベースとして診断・治療に集中する。
このように当院ではチームでフォローアップ体制を整えて、術後も長期に渡り細かく評価・調整をすることで、患者さんの快適な生活を支えています。

正常圧水頭症の患者の多くは見過ごされおり、治療機会を失っている

あまり知られていませんが、正常圧水頭症は実は発生頻度の高い病態です。年間の罹患率が10万人あたり120人という統計もあります。単純計算ではありますが、人口が150万人を超える神戸市であれば、年間1800人程が罹患していることになります。
しかし、実際のところ、当院での手術件数は年間30~40件です。他院を入れたとしても、1800人には遠く及びません。正常圧水頭症の患者さんすべてが手術対象になるというわけではありませんが、そうであったとしても、非常に多くの正常圧水頭症の患者さんが見過ごされているということになります。

現状、正常圧水頭症は、認知症検診で見つかるパターンが多くあります。特に神戸市は、65歳以上の全市民が認知症診断を受診できるため、診断のために行ったクリニックで歩行障害を見つけていただき、治療につながるケースがかなりあります。
認知機能の低下と歩行機能の低下が重なったとき、あるいは、認知機能の低下がそこまで顕著でなくとも、歩行障害が気になる患者さんには、一度画像診断を受けていただくことをおすすめします。

治療で歩行機能が改善すれば、同じ認知症であってもQOLは大きく変わる

正常圧水頭症は、単独で起こることはむしろ珍しく、多くがアルツハイマー病など他の病気と併発しています。アルツハイマー病で認知機能が低下してしまったところに、さらに水頭症による歩行障害が起こると、患者さんご本人やご家族の負担もより大きくなってしまいます。
シャント手術を行うことによって、歩行機能が改善すれば、同じアルツハイマー病であっても、患者さんの過ごし方やご家族の負担も軽減し、QOLの向上が期待できます。

当院では脳神経内科にて、認知症の鑑別診断も行っており、正常圧水頭症はもちろん、アルツハイマー病やパーキンソン病などの類似疾患の鑑別も可能です。認知機能の低下や歩行障害のある患者さんがいましたら、ぜひ当院にご紹介いただければと思います。

正常圧水頭症センターページはこちら

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