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vol.11 Interview

vol.11 Interview

創立70周年を迎える
吉田病院が目指す病院づくり

理事長・院長 
吉田 泰久

神戸兵庫区に整形外科病院として70年前に開業した吉田病院は、1968年に脳神経外科として再出発し、日本屈指の脳神経外科病院を核として領域を拡大しています。急性期医療にとどまることなく、機能回復のための訓練を重視、慢性期、終末期までをトータルに管理するべく、地域医療連携のネットワーク強化に注力しています。

未知なる脳神経外科分野で開業を決意

当院は1952年に整形外科医だった祖父が開業しました。当時は近くの港湾での荷役作業中のケガが大変多く、整形外科医として診療にあたっていたそうです。父は1959年に京都大学の医学部の第一外科の医局に入り、そこで脳神経科学の創始者の一人である荒木千里医師と出会ったことで、未知の分野だった脳神経外科学の世界に魅かれていきます。1960年代末から始まった大学紛争により大学で研究ができなくなり、1968年に地元神戸に戻って開業したのが現在の吉田病院です。地域に根ざした民間の脳外科専門病院は国内でもまだ少なく草分け的な存在でした。

当時、大学病院の脳神経外科では脳腫瘍の治療をメインに行なっていました。けれども、患者が圧倒的に多かったのは脳卒中と脳出血でした。高度成長期で車やバイクに乗る人が増え、ヘルメットをかぶっていなかったこともから、外傷や頭蓋内出血を起こすような交通事故が頻発していたのです。当時はまだCTもMRIもなく、血管造影をする程度でしたから脳卒中の治療といっても、開頭して血腫を除去するぐらいしかできませんでした。

医療機器の登場で脳卒中治療は革命的に進化

脳外科医療の分野は、1970年代半ばからCTをはじめとした医療機器が登場し、出血箇所が見えるようになったことで飛躍的に発展していきます。当院でも早い段階で海外に視察に行き、1977年には全国の病院に先駆けてCTの導入に踏み切りました。私が医学部を卒業した1986年頃までに CTは全国的にほぼ普及していきます。さらに1980年代にはMRIが登場し、早期の脳梗塞も発見できるようになり、1990年代にはカテーテルによる血管内治療が本格的に行われるようになりました。

医療技術の目覚ましい進歩により、日本の脳卒中治療は時代とともに大きく変わっていきます。病院を開設した当初は脳出血が多く、私が脳外科医になった頃は、くも膜下出血で運ばれてきた患者さんの開頭手術が脳外科治療の要でした。それが次第に開頭ではなく、顕微鏡を使って行う手術に変わり、今ではそれも減少し、コイル塞栓術といったカテーテルを使う方法に変わってきています。脳梗塞についても脳外科医は何もできずに眺めているだけの時代から、今では救急車で運ばれた患者さんを、直ちに治療して進行を止める血管内治療が主流となり、国の制度として救急医療体制が整備されていきます。

県内でもトップレベルの症例数を誇る

血管内治療の専門医制度は2001年から始まり、2015年に国際脳卒中学会で急性期血管内治療の有効性が証明されました。私自身も血管内治療の専門医第1期生として、当院では従前から血管内治療に注力してきました。現在、多くの専門医が所属し、24時間切れ目なく救急治療にあたっており、2021年の脳卒中の入院者数は脳梗塞602件、脳出血140件、くも膜下出血30件と神戸市内ではトップであり、兵庫県内でも3位、血管内治療においては100件を超えています。医療技術の進歩でさらに領域が広がり、最近ではくも膜下出血も血管内治療で行っています。

急性期から回復期まで一貫して治療を行う

脳卒中という病気を全体として捉えたときに、手術だけで終わらせず、術後のリハビリをシームレスにつなげる構想が父の時代からありました。たとえ命が助かっても手術後に半身麻痺が残り、そのまま放置することで寝たきりになってしまいます。リハビリテーションを始めるタイミングは早ければ早いほど、後遺症を軽減できるのです。早い時期でのリハビリの必要性は十分認識されていたにも関わらず、当時は脳卒中でリハビリをするという概念がほとんどありませんでした。当院では柔道整復師に依頼して行っていましたが、その後、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士が国家資格として認められ、2000年に回復期リハビリテーション病棟が制度化されたことで一気に広がりました。

時代の要請に従い、当院でも2013年に回復期リハビリテーション病棟を開設しました。それにより手術を含む初期治療は医師が担当し、現在では9割以上の患者さんが発症当日からリハビリを開始しています。手術をして終わりではなく、ある程度自立できる状態で地域に戻せるよう、100人体制でセラピストを配置し、急性期から回復期まで一貫して治療を行っています。このような脳外科の専門施設は全国的にも少ないのではないでしょうか。

地域に戻ってからいかに再発を防ぐかが課題

今後、注力すべきだと考えるのは、その先である回復期以降のケアです。脳卒中・脳梗塞は一度回復しても再発する人が多く、要介護となる原因の半数を占めます。退院後、地域での生活にいたるまでの回復期リハビリテーションや在宅生活での継続的なリハビリテーション、また介護や再発を予防するためには、発症時の急性期治療にとどまらず、専門的な知識を持つ医療や介護スタッフによるケアが不可欠です。私どもも、時代の要請に沿って、2013年には回復期リハビリテーション病棟を開設すると同時に、訪問看護、訪問リハビリテーション事業を立ち上げました。2015年から介護療養型老人保健施設がグループ傘下となり、法人を統一して一体的な運営をしております。

神戸市内では急性期病院から回復期病院へ移行するための連携はしっかりとれていますが、在宅のかかりつけクリニックとの連携は十分とはいえず、回復期後のケアは専門医のフォローから外れてしまうのです。脳卒中は喫煙や飲酒、食事や運動で肥満をコントロールし、高血圧、糖尿病などの生活習慣病を予防することで多くの場合は防げる病気です。ただ通常は人員の面から見ても積極的に受け入れる体制が整っている病院は少ないと思います。特に全科を扱っている総合病院の場合、地域に移行した患者さんに対して、フォローし続けるのは難しいかもしれません。急性期で運ばれてきて回復期を経た患者さんに対して、かかりつけ医や在宅医の診療所で定期的に検診や検査を行っていただき、専門機関である当院としても滞りなくフォローできる体制を整えて、再発予防を管理する仕組みを構築する必要があります。

専門性の高い診断と治療を提供する専門外来

そのためにも脳卒中の後遺症がある方や再発予防が必要な方、脳卒中以外でも、認知機能が落ちてきたとか歩くのが不便になってきたという場合など、専門的な診断が必要な病気については、パーキンソン病や水頭症、脊椎脊髄の専門外来がありますから、合わせて診断して治療しますので、ご紹介いただけるよう、お声がけしているところです。例えば、歩きづらくなったのは老化だから仕方ないと諦めていたら、実は水頭症が原因で、それを手術で治せるということはあまり知られていません。水頭症は診断がつきづらい病気なので、積極的に治療をする脳外科医が少ないのです。単なる老化だと思って諦めている人の中にも手術で治る可能性がありますので、ぜひご相談いただいたらと思っています。

もう一つは、例えば、検査で脳動脈瘤が見つかった場合、症状が出たり、出血する前に予防する手術があります。早期発見は専門的な検査を定期的にどれだけ受けるかということが、非常に重要になります。脳の検査には脳ドックがありますが、少しハードルが上がります。脳ドックとまでいかなくても、めまいや痺れなどの軽微な症状の時にMRIを受けて、見つかる人が結構いらっしゃいます。クリニックから紹介されてくる人のほとんどそれで見つかることが多いです。将来的に病気になりそうな病変が見つかれば必要に応じて手術をしますし、手術をせずに経過観察をすることも地域医療における当院の重要な役割です。

終末期の鍵となる、意思表示できる仕組み作り

さらに言えば、終末期をなんとかしなければいけないと考えています。超高齢社会になって高齢者が増えると、治療やリハビリをしても回復しない人が今後どんどん増えていきます。がんの場合は余命宣告されてから本人の意思を確認する時間が十分ありますが、脳卒中は発症が突発的だったり、進行すると認知機能が衰えてくるので、自分で自分の方向性を決めるタイミングが大変難しいのです。そこで私たちが一番協力をしてもらいたいと考えているのは、身近に寄り添っているかかりつけ医の先生方です。

退院して元気になった患者さんに対して医療者から直接、死を意識させる話題を切り出すのは、不安を煽ることにもなり、大変難しいのですが、家族の人と普段からそういう話をしていただくのはとても大事なことです。家族としても、突然本人の意識がなくなると、「とりあえず延命してください」から始まります。けれども、それがはたして本人の希望であるかどうかわからない。そうすると本人の希望に反した寝たきりの人がいっぱい生まれるのです。

患者さん本人が最期にどういう人生を歩みたいか、急性期の病院でも情報を共有することは大変重要なことだと思います。元気なうちにご自身で意思表示をしておく「ACP(アドバンス・ケア・プランニング)」の仕組みをどう整えるかについては退院時にアンケートをとるといった方法も含め、医師会全体でも以前から議論しているところで、テスト的にやってみてモデルケースを作りたいと考えています。

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