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vol.09 Interview

vol.09 Interview

最先端の脳血管内治療と
予防手術の有効性

脳卒中センター部長 
南 浩昭

2004年に開設した脳卒中センターは、24時間体制で脳卒中患者を受け入れ、専門医が直ちに治療を開始できる施設として一次脳卒中センターに認定されています。
SCU(脳卒中集中治療室)を12床有し、脳卒中の入院患者数は年間約800人、常に最新の医療機器を導入しながら、積み上げられた実績による高い治療技術を提供しています。脳梗塞や脳動脈瘤等、発症する前に行う予防治療にも力を入れています。

デバイスの選択がカギを握る血栓回収

急性期の脳卒中治療は発症から4.5時間以内である等、いくつかの要件を満たす必要はありますが、基本的にはt-PA静注療法を行い、その後すぐに血栓回収療法(以下、血栓回収)を行います。

血栓回収のデバイスにはカテーテルそのもので血栓を吸引する吸引カテーテルとステントを展開して血栓を絡めて回収するステントリトリーバーの2種類があります。
カテーテルは年々進化しており、今ではサイズが大きく、太くて柔らかいカテーテルが登場し、カテーテルの吸引力と先進性が向上しており、以前は困難であった血栓まで取ることができるようになりました。後者のステントリトリーバーは誘導した非常に細いマイクロカテーテル内へ誘導して展開するため、吸引カテーテルがうまくデリバリーできない場合でも病変に到達させることが可能です。

当センターでは有効性・安全性の観点から吸引カテーテルを第一選択としておりますが、病変によっては臨機応変にステントリトリーバーまたは両者を用いています。両デバイスとも常に新しいものを導入し適宜選択しながら、治療成績の向上に努めております。

治療開始までの時間の重要性

血栓を回収した状態を0から3までに示す評価で、2B以上が有効な再開通と考えられています。当センターが血栓回収療法を始めた2011年当初は、なかなかいい数字が出なかったのですが、それ以降は、常に8割、現在は9割近く良好な成績が出せるようになりました。
医師の経験値が上がり、治療技術が向上したことと、デバイスが進化したというのが大きいと思います。ただ、血栓をとって開通直後からすべての症状が改善する方がいる一方で、血栓が取れても、社会復帰ができるまで回復する方は45〜50%です。

つまり、医療技術で血栓回収自体の治療成績は上がっていても、発症から治療開始までの時間・再開通が得られるまでの時間によっては虚血による脳損傷が不可逆となってしまい、その結果半数の患者さんは回復には至っていないのです。発症から再開通までの時間と症状の改善には有意な関係があることが証明されています。

ですから1秒でも早く治療開始ができるように患者様を搬送していただくことが重要なのです。当センターでは急性期脳梗塞に対して迅速な対応ができるよう、医師を始め看護師・救命士・放射線技師が常時待機しております。脳卒中と思われる患者様がおられましたら、躊躇なく当センターへの搬送をお願いしたいと思います。

脳梗塞の発症を検査で予測

脳梗塞は心臓にできた血栓による心原性脳梗塞、頭蓋内細動脈(穿通枝)閉塞によるラクナ梗塞、頸部または頭蓋内主幹動脈の狭窄または閉塞によるアテローム血栓性脳梗塞に大きく分類されます。昨今、発症する前に治療して防ぐ予防手術のニーズが高まっています。このうち外科または血管内治療にて予防可能なものはアテローム血栓性脳梗塞になります。

まずMRIと超音波(エコー)で血管の状態のスクリーニングを行います。MRIでは頸部から頭蓋内の血管を見ることができ主幹動脈の狭窄や閉塞の状態を確認することが可能です。
またMRIは脳の状態も一緒に診ることができるので、無症候性脳梗塞、いわゆる隠れ脳梗塞を見つけることができます。例えば右の頸動脈が細い人でたとえ無症状であっても右側に小さい梗塞がたくさんできている場合、将来的に右側に脳梗塞を起こす可能性が高いと判断ができます。

次に超音波検査(エコー)ですが、脳神経外科領域では主に頸動脈の評価をします。頸動脈は動脈硬化の好発部位でアテローム血栓性脳梗塞の原因として最も重要で、頸動脈エコーでは動脈狭窄に加えて血管壁内のプラークの性状を評価することができます。
これらの検査により血管が一定の狭窄率を越える状態でリスクが高いと判断した場合には予防のための手術をお勧めしています。手術が安全なのかどうか、合併症も含め手術のリスクを聞いて、十分にご家族と話し合っていただいた上で患者さん自身が決めることになります。

頚動脈内膜剝離術(CEA)で綺麗に治す

頚動脈内膜剝離術(以下、CEA)は、頸動脈の高度な狭窄病変に対する治療法として有効性が証明された治療法です。CEAは首を切るので驚かれますが、頸動脈というのは切るといっても1.5cmぐらいの深さで、手術は大体4時間から4.5時間ぐらいで終了します。
頸動脈を露出し上下の血流を遮断して、動脈を切開してからシャントチューブという管を通して血が頭に流れるようにしてから血管の壁からプラークを摘出します。技術的にはそんなに難しいことではありません。手術の適応としては、病変が低い位置にある方がやりやすく高くなればなるほど、顎のところの奥に入っての操作が非常に難しくなります。
CEAは、狭窄の原因となっているプラークや内部の血栓が綺麗に取れるので、柔らかいプラークでも完全に取り除くことができ、すっきり治るイメージがあります。
術後は一時的に声がかすれる、傷が残るため切ったところがビリビリしたりすることがあります。

切らずに治す頸動脈ステント留置術(CAS)

一方、頸動脈ステント留置術(以下、CAS)はカテーテルによる治療で、切らずに済み、術後も太ももの付け根に2〜3mmの穴が残るだけなので、こちらを選ばれる方が多いです。
CASはカテーテルを病変まで上げてステントという金属の筒を置いて開いて内側から広げます。カテーテルを安定的に病変まで持っていくことがポイントです。病変が高い位置にあれば問題ないのですが、逆に低い位置にある場合はカテーテルが安定しにくいため、やりづらいというのがデメリットの一つです。
通常は大腿部の付け根から1mぐらいですが、人によっては大動脈が蛇行してカーブが強く、動脈硬化で狭窄があるとカテーテルをあげるのに難渋するケースが結構あります。その場合は直接、穿刺して直接頸部から入れることもあります。

CASは術者の経験や技術レベルに加え、カテーテルとワイヤーの選び方によって結果が大きく変わってきます。つまり医師の技術力と最新のデバイスを駆使することで、低侵襲の治療が受けられる患者さんの適用範囲が広がります。

フィルターでプラークを回収後、血液を戻す

もう一つ、術中に出たプラークをどう回収するかも重要です。従来は病変から離れたところにフィルターを置いて、それに引っかかったプラークを後で取り除いていました。フィルターの目より細い液状のプラークはフィルターでは止められないので、現在はバルーンがついたカテーテルを手前において血流を遮断しステントを開いて出たプラークを手前で回収し、その血液を吸引しています。

以前はこの血液を全部捨てていたのですが、量が多いと貧血を起こすことがあり、今は静脈にもカテーテルを入れてフィルターをつけ、静脈に血を戻すようにしています。ただ血液を返す前にどれくらいプラークが出ているのかを確認し、出ていないようであればバルーンを外して血流を順行性に戻すようにしています。

術後のフォローアップもしっかり行う

CEAもCASもある程度の内腔の広さを確保すれば再発は起こりにくいのですが、術後でも再狭窄が起こるものと考え、定期的に画像診断をして変化をチェックします。最初は3か月、安定すれば年に1回ぐらいは、フォローアップを行います。当院はMRIをいつでも施行可能な状態を整えておりますので、ぜひ利用していただければと思います。

表面に近いところは開頭手術を選択

脳動脈瘤の手術に関しては、原則大きさが5mm以上で場所によって小さくても破れやすいところや短期間でサイズが大きくなる場合には治療に踏み切ることが多いです。治療はカテーテルを使った塞栓術と開頭術があります。脳動脈瘤の場合は病変の場所や大きさも向きや形も違うのでどちらがとりやすいかという術者の判断になります。深いところにあるものはカテーテル、表面に近い病変は開頭を選択することが多いです。カテーテルは150cmあり遠隔操作で行うため、遠くなればなるほど操作性が悪くなります。表面に近いものは開頭する方が確実です。

開頭手術は術後の痛みもあり、大きな合併症はなくても 感染であったり術後に筋肉が萎縮したりと容姿的な問題もあります。カテーテルの方が患者さんにとって負担は軽いのですが、動脈瘤を確実につぶすという目的であれば、侵襲があっても表面から近いところは開けるという選択は間違っていないと考えています。

最新のデバイスを使った脳動脈瘤治療

一言に塞栓術と言っても治療や道具の選び方で非常に多くのバリエーションがあります。塞栓術のコイルは昔と比べると 非常に柔らかくて小さいものから太いものまで非常にバリエーションが増えています。口の広い動脈瘤の場合は、親血管に出るのを防ぐために、治療用のカテーテルを入れてからバルーンカテーテルを使ってコイルで出口を塞ぐようにしています。ステントも非常にいいものがたくさん出てきて使いやすくなったことでリスクがかなり減りました。

コイルで埋まらない大型の脳動脈瘤には血液の流れを制御し、血管壁を新たに形成して動脈瘤を閉塞させるフローダイバーターという治療を行います。パルスライダーという最新のデバイスは、従来使用されてきたステントに比べ金属量が非常に少ないため、血栓症予防のための抗血小板剤を服用する期間が短く済むというメリットがあります。最新のデバイスを使用するためには資格が必要なものが多く、講習やトレーニングをしっかり受けた実施医が施術を行います。

血管内治療は回復が早く高齢者でも安心

CASや脳動脈瘤の血管内治療であれば術後3〜4日で退院が可能な場合が多いのですが、開頭すると10日から2週間程度ぐらいかかることもあります。ご高齢の方は入院期間が長くなると運動能力の低下や認知障害を発症することもあり、できるだけ術後、短期間で退院もしくはリハビリを行うことが理想的ですが、開頭の場合は痛くて動けないことも多いです。そういう意味でもご高齢の方に対しては血管内治療が特に大きなメリットがあると思います。

エコーによる定期的なスクリーニングを

脳梗塞は非常に頻度の高い疾患ですが原因が明確なものに関しては手術で防げます。動脈瘤に関してくも膜下出血を起こしてからでは予後が悪くなります。命に関わる病気ですからあらかじめ分かっているものがあれば可能な限り治療しておくのは妥当な考え方だと思います。
頸動脈に関してもエコーであれば侵襲もなくできますので、動脈硬化のようなリスクファクターをお持ちの方は偶発的に病変が見つかる方も多いので、スクリーニングを行うことをお勧めしており、ぜひご紹介いただければと思います。

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